中標津町養老牛温泉の近くをモアン川という小さな川が流れています。
むかし、虹別のアイヌたちは春になると養老牛温泉に行き、男たちは熊狩りを、女たちは温泉でオヒョウニレの皮をなめし、そしてモアン川でヤマベ釣りをしていました。
この中には虹別のコタン(村)で一番美しい娘と、一番勇敢な若者がいました。
娘は若者が大好きでした。若者も娘が好きだったので、熊や野兎などの獲物がとれるといつも分け前を娘の家の前に置いていたのです。
ところが、ある日若者は突然姿を消してしまいました。
ひと月たってもふた月たっても若者のゆくえはわかりません。
娘は若者が自分を嫌いになって姿を消したのだと思いとても悲しみました。
でも、それは娘の思いすごしでした。実は若者は熊と格闘の最中に摩周岳の火口に落ち、大ケガをして動くことができなくなっていたのです。
しばらくたって、このことがようやく娘の耳に届きました。娘はとても驚き、家族にもつげず大急ぎで摩周岳へ向かいました。このとき娘は、若者のケガが早く良くなるようにと、モアン川のヤマベをたくさん釣って持っていきました。
しかし、残念なことに、娘が摩周に着く前に若者は神様に召されていたのです。
娘は大そう悲しみ、いつまでも泣いていました。
娘のなげき悲しむ姿をみた摩周のコタンの人たちは、死んだ若者を部屋に寝かせ、
娘と二人だけにしてやりました。
七日七晩泣きつづけた娘の声が消えたので、部屋をのぞいてみると娘は若者の胸で眠っていました。
それからまた七日七晩が過ぎ、コタンの長老が声をかけてみると、驚いたことに二人の身体は一つになっていたのです。
娘の悲しみを知った神様が心も身体もひとつにしてあげたのでした。
そして神様は娘が持ってきたヤマベを生き返らせてモアン川へ帰してやりました。
それから、モアン川のヤマベは骨も柔らかく、この辺の川で一番おいしくなったということです。